第37回 いま、なぜ?満州ブーム 「オーロラ宮異聞」の西木正明さんに聞く
1月25日号
満州ブームだそうである。
1932年に建国され、理想国家とも傀儡国家ともいわれ、わずか13年半で瓦解した現中国東北部の旧満州国が、いま、なぜ?
 昨年2006年は、満鉄創立から100年の節目でもあった。満州生まれの小沢征爾や山田洋次などの活躍も目立つ。旧満州を巡る権謀術数の主役の一人、岸信介が、現総理の祖父に当たることもあるのだろうか。
「ルーズベルトの刺客」や、阿片密売の謎の人物を追った「其の逝く処を知らず」など満州に関する著作も多い西木正明さんに聞くことにした。
 西木さんは1940年生まれ。デビュー作の「オホーツク諜報船」で日本ノンフィクション賞新人賞を受賞、88年には第99回直木賞、95年新田次郎賞、2000年には柴田錬三郎賞を受賞した、若者にも多くのファンを持つ作家である。
 西木さんは現在自著の「オーロラ宮異聞」(「孫文の女」文芸春秋社刊より)の劇化に当たって、プロデュサーを兼ねている。上演を間近に控えて、熱っぽい稽古場を訪ねた。
 満州ブームは、昨今のナショナリズムの高まりとも言えるが、日本の現状の閉塞感が、満州へのあこがれとして出てきているのではないか、と西木さんはいう。「問題もたくさんあり、後に変節してしまったけれど、五族協和など、理想国家への夢があった」。それに較べて「いまの〈美しい国〉はいかにもいかがわしい。いったい誰にとっての国なのか」。
 30日から上演の「オーロラ宮異聞」は、「孫文の女」から劇化された三作目にあたるが、いずれも20世紀前半、歴史の裏側で、日本の運命を変えていった名もない女たちを描いたものである。最初の「アイアイの眼」はロシアのバルチック艦隊の動きを探った娼婦、「孫文の女」は、日本滞在中に孫文を支えた2人の日本女性、そして今回の「オーロラ宮異聞」は、満州に売られ、馬賊になった日本の女が、軍部と張作霖との交渉を裏側で支えた話である。
 故郷を失った女たちの三部作は、いずれも「今日よりは明日の方が良くなる! と2世代前の人たちが見た夢を、いまの若い人にも見てもらいたい」。見果てぬ夢こそ、人間の生そのものであり、作家としてのテーマでもある、と西木さんはいう。
 上演を前に、「10名をご招待」と朝日新聞に出したところ、1000通もの応募があって、西木さんはうれしい悲鳴をあげている。「招待者を増やさなければいけない」。目下最大の悩みごとである。

写真上 稽古場にて。「オーロラ宮異聞」(西木正明「孫文の女」より、脚本演出・永島直樹)は「新宿シアターサンモール」にて、1月30日(火)より2月4日(日)まで。前売4.700円、当日5,000円。問い合わせは045-594-4442まで
写真下 西木正明さん
オリンパスEー500 ズイコーデジタル11-22ミリ

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