第35回 お節にもオリーブ・オイルの勧め 朝倉玲子さんに聞く
12月25日号
1994年7月8日、第20回主要国首脳会議サミットがナポリで開幕した。その日の夕食会で、日本の首相・村山富市氏は激しい下痢に襲われ、入院した。大きな国際会議に臨んでの突然のリタイアは前代未聞、ニッポンの恥とも言われたが、当時の少数党の社会党が自民党と組む複雑な政治情勢精のなかで、病院で、さぞかしほっとしていたかも知れぬ。ちなみにこの日は、アメリカでは向井千秋さんが搭乗したスペース・シャトルが打ち上げられ、午後には金日成の死亡が伝えられた。
このとき、朝倉玲子さんは、何回目かのイタリア旅行中だった。旅行といっても、96年から3年間イタリアに住むことになる朝倉さんにとって、その準備のための旅でもあった。その途中でナポリの下痢騒動である。1部では「ニッポンの首相・村山は、慣れないイタリア料理を食べ過ぎて、オリーブオイルにあたった」と報道された。「イタリアの農民はオリーブオイルが原因で下痢などトンでもない、と怒って抗議していました」朝倉さんは「今でも悔しさ半分、恥ずかしさ半分です」という。 現在、会津若松市でオリーブオイルの輸入販売をしている朝倉さんは、1964年生まれ、18才で上京、学校からOLへ、と普通の道を歩み始めたが、どうにもつまらない。そんな日、毎日新聞の「いま活躍する女社長」の記事を見て転職。自然食、玄米の料理専門のケータリングだった。「バブルの泡が泡だったころで、死ぬほど働いた。一方、自然食に接して、今まで食べていたものは何だったか」という思いに襲われた。
思いあまって、千葉の有機農家へ嫁いだ。「大変だったけど農家は良かった」。4年後、離婚。
イタリアへ。南イタリア・ベネベントの農家民宿に入った。3ヶ月目に、自分のオリーブオイルがなくなったので、スーパーで買ってきた。油臭く、日本の安いオリーブオイルと同じだった。このときから、「逆にオリーブオイルの素晴らしさに気づき、トリコになった。そしてオイル屋になろうと思った」。30才の時だった。
ここで、今更聞けない初歩的疑問を。「エキストラ(EX)バージン・オイルは特別なもので、これをじゃぶじゃぶ使うは贅沢すぎる。イタリアでは普通の安いオイルを使って料理し、仕上げにEXを振りかけて風味を出す、というのは本当ですか?」答えは、「間違いです。オリーブオイルはEXバージンとバージンオイルが1番絞りです。オリーブオイルは胡麻や菜種などと違って、種でなく果実から直接に、火を通さず創るものです。28項目の検査基準があって、基準以外の油に、熱や薬品を加え、色と匂いを除いてバージン油を少し加えたものをピュアオイルと言っています。日本ではバージンオイルはほとんどレストランなどへ納入されるので、家庭ではEXをお使いになると良いでしょう。賞味期限は瓶詰めの日からの算定なのでご注意を」。もうひとつ、どんなオリーブオイルがいいのか?「日本に手前みそがあるように、農家と畑であじが違う1軒もの、手前オリーブオイルがあるので、お好みとしか言えません」
朝倉さんは、すでに南イタリアに自分の5ヘクタールの農場を持ち、2年後には自然農法の「手前オリーブオイル」を日本へ輸出することになる。

写真 「冷や奴にオリーブをかければたちまちイタリアンに。もう一つのおいしさに出会えます」 と語る朝倉さん。いっしょにイタリアへ旅行した人たちとの懇親会で。(世田谷・経堂のmame de cafeにて)
キャノン パワーショット プロ 1

close
mail ishiguro kenji