第30回  新そばの季節に・・おらが蕎麦や そばの粋を極めるか 室町砂場
10月10日号
 ネットの「室町砂場」の書き込みに、「この店でお蕎麦をいただくことはほとんどありませんが、結構通っています」と出てくる。あれれ、検索を間違えたかな。「おらが蕎麦や」といっても、そばを食べないお蕎麦やさんとは! さらに別の書き込みは「所詮そばだろっ?なんて言う方は、一度足をお運びください。お蕎麦の概念が根底からうち消されます」。ここまで言われると、たかがネットの書き込みさ、などと言っていられない。訪ねることにした。
 電話をすると実に丁寧にわかりやすく道順を教えてくれる。さすが老舗だともう感心した。(JR山手線神田駅、総武線新日本橋駅、地下鉄銀座線三越前駅から、いずれも3分。)平日の午後3時頃だったので空いていたが、有名な坪庭をのぞむ席はカップルが占領していた。先ずお酒と言い掛けたが、仕事でもあり、あとのことも考えて断念。室町砂場が創始したと言われる「元祖天ざる」をいただくことにする。温かい天つゆにかき揚げが沈んでいる。そばは、真っ白で艶があり、見た目にもきりりとしまった逸品に思われる。が、うわさのとおりざるが透けて見える。これが有名な「名店盛り」か。パーコードそばとも言われる量の少なさである。
本カツオだけで取り、砂糖とみりん、濃口で調味したつゆは、辛からず甘からず、絶品といえる。そばの芯だけを挽いた更科粉を卵でつないだというそばを味わえば、腰の強さとなめらかさ、歯切れの良さのとほのかな甘さ。文句の付けようがない。しかし、さすがに量が足りず、別製ざるそばをもう一枚。結局、満足感が得られなかったのは酒がなかったせいであろうか。
 後日、社長の村松毅さんにお会いした。明治2年の創業以来、5代目となる若きオーナーシェフである。平成2年、父が突然他界したときは、まだ20才の学生だったが、家業の経営と両立させながら早稲田大学を卒業。そこまではよくある話だが、4年後、服部料理専門学校へ入り、基本を学び、その後も京都に本店のある老舗の日本料理店で2年間「社長業をやりながら丁稚奉公」をした。今後もさらに料理の粋を極めたいという。「ヨーロッパdの修行も?」「興味はありますが、日本料理の伝統は日本にしかないわけで・・・」
あくまで、こだわりのようだ。
ちょっと聞き難いことを聞いた。「美味しいという評判と同じくらい、量が少ない。お腹がふくれないのに高価すぎる、という非難もあるようですが」
村松さんもそれはとっくに承知。「そばは、がばがば食べるものではないと思っています。日本酒に卵焼き、板わさ、焼き鳥などのあと、最後にそばをつまんでくださる。そういうお客様に応えなければいけないと思っています」なるほど、老舗の若きシェフが目指しているのは、日本料理としてのそばを賞味する粋な店、そういう夢なんだな、と了解した。

写真上 坪庭を見ながら粋なひと時を。
写真下 店は大きなビルの1,2階。
(中央区日本橋室町4丁目1-13 tel 3241-4038 日曜、祝日、第3土曜休み 平日11:30-21:00、土曜11:30-16:00)
 別製ざるそば650円、天ざる1,550円、種込天ぷらそば2,500円。卵やき650円 酒は菊正宗700円。


オリンパスEー330 ズイコーデジタル14-54ミリ

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