第29回  新そばの季節に・・おらが蕎麦や「南千住砂場」砂場総本家を訪ねる
9月25日号
 今年も新そばの季節がやってきた。そば好きなら誰でも1軒や2軒はキープしている「おらが蕎麦や」さん。今年は次回と2回続けて東京の「砂場そば」を味わっていただくことにする。
 先づ、「南千住砂場そば」。インターネットに、「総本家」と出ているから、ぜひとも訪問して、そばをいただいてみなくてはならない。
 地下鉄日比谷線を三ノ輪で降り、国道4号線を北へ、明治通りを渡り常磐線のガードをくぐるとまもなく左手にジョイフル三ノ輪のアーケード商店街に着く。その半ほど、見るからに由緒ある老舗のおもむきの店。筆太の「そば砂場」の提灯の後ろ、繊細な千本格子の窓の下のショーウインドーにはミニチュアの鉄道模型。三輌立ての電車が走っていて、いかにも親しみ深い店を演出している。
高い、傾斜のある船底天井、昭和29年(1954)、職人技の粋を集めて建てたという。店内はやや暗いが、歴史の重みと言い換えてもいい、落ち着きのある雰囲気だ。ついでながら、商店街の先は都電荒川線の線路が走り、三ノ輪橋駅が近い。いかにも可愛い電車。メルヘンチックな駅のホームでは、ベンチでカップルがお弁当を広げていた。この電車に乗ってくれば、東京イーストサイド・三ノ輪情緒も極まるだろう。
正面のカウンター脇には、「ここに砂場ありき」ののぼりのような大型のれんが掛かっている。「本邦麺類店発祥の地 大阪築城史蹟・新町砂場」と題して、「天正11年(1583年)太閤秀吉が大阪築城を開始、浪速の街に膨大な資材置き場を設けたが、ここ新町には砂などが置かれ、通称を「砂場」と呼んで工事関係者が日夜雲のように集まった。人集まるところ食を要す。早くも翌年、古文書に「麺類店いづみや、津の国屋など開業」と出てくる。すなわちこの地、本邦麺類店発祥の地なり」とある。南千住砂場は、文政年間1800年代に江戸で評判をとった「麹町七丁目砂場」の後裔に当たるという。
 そばをいただきながら、14代当主の長岡孝嗣さんに聞いた。そばは北海道などの八割強で、つゆはカビで覆われたかつおのカビを洗って削り、醤油と砂糖で調味したものを冷暗所で熟成させる。水は備中炭で濾過したものを使っているという。そばはおいしく量も充分だ。つゆはさすがに深みがあるがこってりと甘い。筆者には甘すぎた。
 最後に、ネットでの噂について聞いてみた。いわく、「砂場の本家の資格を途中で他の 店に譲ったりしたので総本家を名乗るのは・・・」長岡さんは、初めて聞く話だと笑い飛ばされたが、変な噂が一人歩きしないように願うばかりだ。

写真上 暖かみのある店内で。14代当主長岡孝嗣さん(55才)。
写真下 荒川区の文化財保護推進委員活動報告書に登録された店構え。
(荒川区南千住1-27-6 tel03-3891-5408)
もり630円、とろろ1,150円、天ぷらそば1,260円。酒は剣菱と菊正宗。

オリンパスEー330 ズイコーデジタル14-54ミリ

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