第28回 元祖前衛芸術家・篠原有司男 ギュウチャン、ブレイクするか?
9月10日号
 写真は、ギュウチャンが公開制作の「馬に乗ったジャンヌダルク」を描き終えた瞬間である。ジャンヌダルクのうしろにはカエルとウサギも乗っているという。  カラーでないのがつくづく残念だが、蛍光絵の具がいきいきと飛び跳ねる絵を見ていると、何かしら痛快な気分になってくる。
 痛快ついでに彼の初のドローイング集「毒ガエルの復讐」を見てみよう。この本は1980年代から現在までの50年間の未発表の絵が入っていると言うが、いきなり「フックだ!ボディだ!ええい面倒だ!みんな一緒に掛かってこい!」と始まる。ドローイングとともに、彼のこれまでの発言や執筆原稿から名文句、名フレーズもちりばめられているのだ。「何もかもぶっ飛ばし、見た瞬間に
ギャー!てな作品を提供したいんだよね。」「注意してみないと何が何だかわからないのが、シノハラアートの特徴です。」
たしかにメチャクチャ、描き殴りそのもだが、痛快感と共にエネルギーもやって来る。しかし、ページをめくるうちにふと悲しみの感情が強くつたわってくるのはなぜだろう?
 ゴッホのひまわりの絵の模写に添えて、「アルル時代の金字塔ヒマワリ画の花の魂に目鼻を付けてみたまえ、ゴッホの自画像になる。希望の裏に潜む絶望、勝ち目のない戦いに挑んだ男の魂の叫びが読めるはずだ。」
篠原有司男は、1932年東京生まれ。東京芸大油絵学科を中退後、ロカビリー画家として初個展。60年に赤瀬川源平などとネオ・ダダ・オルガナイザーのメンバーとして活躍した。このころ、「白の空間に、バチバチとヒットして行くスミを含んだグローブが作る痕跡」ボクシング・ペインティングを始めた。(最近では亀田兄弟が挑戦した「誰でもピカソ」、福山雅治と共演したポカリスエットのCMでごらんになった方も多いだろう)。
 69年渡米。「ニューヨークというのは出稼ぎの街だから、カネ、カネ、カネなわけね。そのあいだにいっさいの感情、センチメンタルズムがない。」「一年間の奨学金も切れて、眼前に広がる恐怖のニューヨーク。何事も一からスタートだ。」  もらった古いキャンバスにくるまって寒さをしのいだ冬、ロフトの前に捨てられていた山積みの段ボールをオートバイ彫刻に仕上げ、発表を続けた。この彫刻に魅せられた男がいた。今度の「ギュウチャン・エクスプロージョン・プロジェクト」の中心になった矢崎淳さん(共栄繊維(株)社長)である。「オートバイ彫刻を初めて見て、金髪をなびかせて乗っている女性も〈カッコイイ!〉と一目で気に入りました。」(オートバイ彫刻は、いわき市立美術館などで見ることが出来る)。
芸術は爆発だ!と言ったのは岡本太郎だが、彼は、ギュウチャンが1968年に出した「前衛の道」(今回復刻された)に、「とにかく痛快な男。ひたむきなベラボウさを私はかう」と推薦文を寄せている。いま、爆発の時期を迎えたギュウチャン・エクスプロージョン・プロジェクトは鹿児島、京都などから始まる。東京では、渋谷のNANZUKA UNDERGROUNDで、「篠原有司男・爆走集会」(9月20日よりtel:03-400-0075)などイベントがぎっしり組まれている。
「ギュウチャン・エクスプロージョン!プロジェクト」
http://www.new-york-art.com/shinohara/index.html

写真上 公開制作中のギュウチャン。ナディッフ青山にて。
写真下 ギュウチャンの本が3冊同時に刊行。右から「篠原有司男ドローイング集 毒がエルの復讐」¥3,800円+税「前衛の道」(完全復刻版)¥3,800円+税「対談集 早く、美しく、そしてリズミカルであれ」¥2,800円+税。
オリンパスEー330 ズイコーデジタル14-54ミリ

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