第12回  ベツレへム聖誕教会のクリスマス・イヴ
12月25日号
 まず写真を見ていただきたい。何か大きな集会であることは分かる。しかし、スターの登場するロックの大演奏会ともちがう。むしろ愉快な出しものを期待しているようにみえる。とても和んだ楽しいひとときのようだ。
これが、実は昨年パレスチナ過激派が占拠してたて籠もった、イスラエル・ベツレヘム聖誕教会前広場の、クリスマス・イヴの真夜中の映像だと言っても信じてもらえるだろうか。
 たてこもったのではない、教会がかくまったのだという説もある。ベツレヘムはパレスチナの暫定自治区だが、住民のほとんどはキリスト教徒で、イスラム信者はごく少数だと言うからややこしい。
首都エルサレムから南へ10キロだが、ここへたどり着くまでが尋常ではない。普通のバスの便はない。独特の場所で相乗りの小型トラックを待つ。タクシーも、ユダヤ人のタクシーは行ってくれない。パレスチナ・ナンバーのタクシーをみつけなければならない。いずれも値段を交渉して乗り込むのである。ベツレヘムの入口、つまりイスラエル側の出口には厳重なチエックポイントがある。日本人は無事通過だが、世界各国から、キリスト教徒にとって最大の聖地、イエス誕生の地でクリスマス・イヴを迎えようという観光客が来るのである。かれらは、イスラム教徒がメッカへ巡礼をするように、日本人が初詣に神社へ行くように、聖地を目指してくるのである。
 パレスチナの過激派もこの機を狙って集まってくる。なぜか? 聖誕教会のクリスマス・イヴのミサは全世界へ中継されるから、この機を狙って行動を起こせば、大変な宣伝効果があるからという。
ものものしい警備をくぐって、広場にたどり着き、臨時にもうけられた郵便局でアラファト議長(当時)の記念切手を買い、はがきを出す。ベツレヘムの消印は素晴らしい誇りに満ちたしるしである。そして広場のイスに陣取って、寒さに震えながら12時の深夜のミサを待つ。
ミサは広場に作られた大型スクリーンに映し出される。
 問題は帰り道だ。バスもタクシーも満員。あっても法外な値段をふっかけられて途方にくれる。今度はイスラエル側の入り口となるチェックポイントが厳しい。無事帰ってこれたのは、ヘブライ大学に留学されていてエルサレムの歴史の権威である高橋正男獨協大学教授(現名誉教授)のおかげである。
高橋先生はイスラエルとパレスチナについて「お互いの異なった文化を認め合うことができれば・・・」と望みを語る。
教授と最期にイスラエルへ入ったのは5年前になるが、帰途、エルサレムの中心にあるるハファダイ・マーケットに寄り、おみやげを買ってテルアビブの空港に向かった。このマーケットはコウシャ食品を扱っているので、いつもユダヤ人の買い物客で混雑している。なにより、ユダヤの食べものは大変美味しいのである。
 パリ経由で成田へ降り、空港のテレビを見て驚いた。僕たちが最初に見たのは、あのハファダイ・マーケットが爆破された惨状の映像だった。
 今年もひとときであれ、和んだ楽しいクリスマス・イヴを祝うことが出来るのだろうか。 もしかして過激派の襲撃が成功して、戦場と化した広場の模様が世界中に配信される、そんな悪夢がこないように、祈るばかりだ。

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