第9回  新酒甘いか酸っぱいか 映画「モンドヴィーノ」の味わい
11月10日号
 ボージョレ・ヌーボーの季節がやってきた。今年は、2000年の華やかさと2003年の芳醇さを併せ持つ当たり年だという。
 新酒は世界的に11月の第3木曜が解禁と厳重に決められていて、その日までは誰も飲めないというが、今年は華やかだの美味しいだの、どうしてそんなことが言えるのか。さては、こっそり飲んでいる輩がいるんだな、などと、これこそ下司の勘ぐりである。とにかく日本は時差の関係で世界で最も早く新酒を味合うことが出来るわけだ。
 実はヌーボーについて、今更聞けない初歩的な疑問があって、この季節になるとなおさら聞きにくいが、思い切って聞いてみた。
「新酒といえばボルドーだってヌーボーの時期のはずだが、どうしてボージョレだけなんでしょう? 」
 ビストロ・シェ・ラパン(03-5477-8567)のオーナーシェフの斉藤正一さんは、 「ボルドーのヌーボーは美味しくないからでしょう。ボージョレと違ってボルドーは熟成して飲むワインですから」という。最低2年は樽のまま寝かせるものなんだそうだ。
「ボージョレ村のジョルジュ・デュブッフさんが企画して始めたんですよ。当たりましたね、日本では」
 東急百貨店本店ワインコーナーのシニアソムリエの藤巻暁さんは、「もともとワイナリーの人たちが、収穫を祝う労働感謝のお祭り」だったのだという。
さて、次の疑問。分からないのは、ワインの価値と値段のことだ。ウェブでシャトー・ムートン・ロートシルドの1945年から2000年までの55本セットが20,410,650円で売っていて、驚いたことに「売り切れ」と出ていた。2001年のロマネコンチ480,000円、1675年のマディラワイン1,575,000円もすぐに売り切れた。
 問題はこのような投資目的の希少価値のセットやクラシックワインのことではない、普通のワインのことだ。少し前だが、芸能人に10万円の逸品と9百円のテーブルワインを飲ませ、どちらが美味しいか当てさせる番組があった。毎年パリで飲んでます、という一流スターが見ごと間違えて3流芸能人に落ちていき、視聴者の溜飲を下げるというものだ。が、笑っていられない。ワインの味と価格はどのように決められるのか? 
 答は映画「モンドヴィーノ」の中にあった。答をここでいってしまうと興ざめなので詳しくは書けないが、ここでもアメリカの巨大資本がヨーロッパのシャトーに手をつっこんで、世界中のワインの味を売りやすいものに変えている。ワイン評論家やワインコンサルタントが跳梁して、人工的に熟成を早め、味をととのえる。伝統と個性のあるシャトーが、次々アメリカの巨大なワイナリーの軍門に下っていく。
 が、ワインはその土地の土壌と文化が育てるのだ、と地味(テロワール)を大切に守るブドウ生産者もいる。そういうドキュメントだ。監督はニューヨークでソムリエをしていたというが、タフで辛口の重厚なワインのような仕上がりになっている。(渋谷アミューズCQN、シネカノン有楽町で上映中)
 最期に、藤巻シニアソムリエにワインの楽しみ方を聞いた。藤巻さんは言う。「モンドヴィーノのジョナサン・ノシター監督と親しく食事をしたときに監督が言っていた言葉、≪自分の舌を大切に!≫これにつきるでしょう」

シニアソムリエの藤巻さん。渋谷・東急本店ワインコーナー(03-3477-3582)では、11月18日まで「映画モンドヴィーノ・ワインフェア」を開催中。17日からは「ボージョレ・ヌーボーフェア」も始まる。
オリンパスE‐500 ズイコーデジタル14‐54ミリ
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