第5回  9・11から何かが変わる?
9月10日号
 爆破されたニューヨークの世界貿易センタービルの跡地を「グランド・ゼロ」と言って、ひどく怒られたことがあった。テレビ関係の女性プロデュサーだったが、ただの焼け跡を爆心地の意味の「グランド・ゼロ」とはおこがましい、広島と同じだなんてとんでもない、というのである。あまりの剣幕に以後この語はトラウマになってしまった。
 4年前の9月11日8時 48分、アメリカが誇るツインタワーに民間機がつっこんで
世界中が凍りついた。ビル崩壊の映像を見ながら、この日を境に世界はどうなるのか、アメリカはどの様な報復を行うのか、ただではすむまい、と戦慄させられたのだった。以来、アフガンとイラクと2つの戦争が行われ、いまなお殺し合いが続いていることはご存じのとおりだ。
戦争だけではない。テロ対策のためのチェックは厳しくなり、X線照射もパワーアップして遠慮会釈もない。僕たちカメラマンはフィルムを守りきれない。死活問題だった、がこのときデジタルが登場した。まさに救いの神だった。 
 アメリカへ入国する者は全員が指紋と写真をとられる。遠来の客に対して失礼ではないかと言いたくなる。自由でフレンドリーの国も情けないことになってしまったものだ。 さて、この焼け跡の地をめぐって、平和のシンボルとして追悼の場とする案もあったが、結局元通り巨大なビルを建てることになったのは資本主義のプライドであろうか。コンペを勝ち抜いたのは、広島賞の建築家リベスキンドとSOMという設計事務所の共同設計だった。が、ニューヨーク市警がテロ対策に対して不安があると文句をつけ、設計変更。このときリベスキンドがはずされて訴訟問題が起きた。すんなりとはいかないようだ。
フリーダムタワーと名づけられるビルは高さも世界一となるはずだったが、一足お先に、今年、台北に一〇一階五〇八メートルのTAIPEI 101TOWERが完成した。ニューヨーク側は、ビルの上にたいまつをイメージしたアンテナ塔を載せるそうだから、世界一を奪回するかも知れない。
二年前に初めて跡地を訪れたときにくらべて、フェンスはいっそう立派に厳重になっていた。地下鉄の駅が復活したが、電車はまだ走っていない。
9・11といえば日本では選挙の日だ。果たしてこの日から何かが変わるのだろうか?

世界貿易センタービルの跡地は強固なフェンスで囲まれて、中の様子はよく見えない。黙祷を捧げる人も少なくなったようだ。世界一有名な場所にしては観光客の数は多くはない。
コニカミノルタ ディマージュA2

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