「琉球弧物語抄」

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力強い紺青を輝かせていた海が、
しだいに甘いミルクブルーに姿を変えていきます。
空を、音もなく雲が流れています。
目を移すと、一瞬、海は悲しみに満ちた暗緑色に沈んでしまう……。
長い時間、海を見ていました。
海の彼方から、かすかな生きる希望と明るい死の約束が、交互に、静かな潮騒に乗って運ばれて来るのを感じます。
いまはもう、この海と空の交わる先のニライカナイへのあこがれを押さえることなどできません。
豊かな世(ユ)をくれるニライカナイは、同時に「根の国、黄泉の国を意味する幻想空間であり、祖先神のいるところ、死者の行くところ(外間守善氏)」なのです。
「琉球弧物語抄」は、谷川健一先生の著作『琉球弧の世界』をほとんど唯一の教科書として撮影してきました。
琉球弧といっても、宮古諸島と、石垣島、竹富島、西表島など八重山の一部だけの取材です。いつの日か、『琉球弧の世界』を「琉球弧物語」として完成させたいと、たぶん果たせぬ夢だと思いながら……。
(琉球弧とは、九州の南から奄美、沖縄、宮古、八重山、台湾に連なる島列の弧をいいます)。
                                                                          宮古島 平良にて  石黒健治
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